オリゾン・グリーズ
「ん」
途中、タイトルを追う指が止まる。
父の名前でもない銀色の本にはタイトルがない。
あるいはそれが本のタイトルかとも思われたが、歴史書のコーナーにありありと人の名前を付ける本というのは、一体どういうものであろう。
クリストハルトはその本に指を引っかけた。
その時。
「ちょっと待って」
不意に現れた低い声に、手首をつかまれた。
驚いて振り返ると、そこに今まで感じもしなかった青年が立っている。
「この本は危ないから、開いちゃダメだよ」
「……は?」
海のような鮮やかな蒼い長髪を一つに結わえ、深緑のクロークをかぶり足元には膝まであろう革のブーツを履いていた。
歳は20代そこらで、とてもこんな埃だらけの図書館に住み着いているようには思えない、上品な面持ちをしているのである。