君のいる世界




「お兄ちゃん、お帰り」



キッチンに顔を覗かせると、母さんは皿を洗う手を止めた。


俺を見る目はいつも通り優しいけど、今日は少し違う気がする。


眉尻を下げて、何処か心配そうな顔。




「母さん、何かあった?」



「…琴音、バイトから帰って来てすぐ部屋に閉じ籠っちゃったのよ。元気がなくて…何かあったのかしら」



「あいつが?…俺、少し見て来る」



多分失恋とかそんな感じだろ。


あいつも高1だし、恋の一つや二つしててもおかしくない。




俺は数時間前に弁当屋であった事なんて知らずに、琴音の引きこもりを簡単に考えていた。






コンコン。


「琴音?」



部屋のドアをノックしても、声を掛けても返事はない。




もう寝たのか…?





コンコン。


「琴音。入るぞ?」



相変わらず応答のない部屋に、聞いてるか聞いていないかわからないけど、一応断りをいれてゆっくりとドアを開けた。





< 386 / 497 >

この作品をシェア

pagetop