君のいる世界
「お兄ちゃん、お帰り」
キッチンに顔を覗かせると、母さんは皿を洗う手を止めた。
俺を見る目はいつも通り優しいけど、今日は少し違う気がする。
眉尻を下げて、何処か心配そうな顔。
「母さん、何かあった?」
「…琴音、バイトから帰って来てすぐ部屋に閉じ籠っちゃったのよ。元気がなくて…何かあったのかしら」
「あいつが?…俺、少し見て来る」
多分失恋とかそんな感じだろ。
あいつも高1だし、恋の一つや二つしててもおかしくない。
俺は数時間前に弁当屋であった事なんて知らずに、琴音の引きこもりを簡単に考えていた。
コンコン。
「琴音?」
部屋のドアをノックしても、声を掛けても返事はない。
もう寝たのか…?
コンコン。
「琴音。入るぞ?」
相変わらず応答のない部屋に、聞いてるか聞いていないかわからないけど、一応断りをいれてゆっくりとドアを開けた。