君のいる世界




「谷本さん、少しお時間宜しいですか?」



私の前で立ち止まった恵介さんはそう言うと、真っ直ぐな力強い目で私を見据えてくる。




「…わかりました。ここだと人目に付くので、移動しましょう」



私達は高等部の裏門から学園に入り、普段は誰も来ない校舎の裏側で話をする事にした。




校舎裏に着いても、相変わらず眉間に皺を寄せたままの恵介さんが口を開く。




「単刀直入に言います。俺はあなたと結婚出来ません」



唐突な発言に、私は呆気に取られた。


恵介さんの目は真剣そのもので迷いなんて一ミリも感じられない。




「この話が本条にとって願ってもない話だということはわかってます。だけど、俺には守りたい奴がいるんです。そいつ、天然でいつもボーッとしてて危なっかしいっていうか…泣き虫だし、寂しがり屋だし。俺が側にいてやんねぇと駄目なんですよ」



「…恵介さんにとって、何よりも大切な人なんですね」



その人の話をしてる恵介さんの表情を見ればわかる。


さっきまで怯んでしまいそうなぐらい怖い顔をしていたのに、今はこんなにも柔らかい穏やかな顔をしているから。




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