君のいる世界




「中澤大輝さんと仰いましたね?あなたは一度ならず二度までも邪魔をして、一体何が目的ですか?」



「邪魔をしたわけではありません。俺は麗奈を誰にも渡したくなかった。ただそれだけです」



大輝は祖母の威圧感に怯む様子はなく、背筋を伸ばして力強い眼差しで祖母を見据えている。


私は大輝の言葉が嬉しくて、緩みそうになる口元をギュッと結んだ。





「…馬鹿馬鹿しい。恋だの愛だの、そんなものは人間を駄目にするだけです。あなたのように下流社会に暮らす人間には一生わからないことでしょうが、そんなくだらないものに現を抜かしているとこちらの世界ではすぐに負けてしまうんですよ。この不況の中、生き抜いていく為には情なんてものは不必要なだけです」



「確かに、俺は上流社会のことなんて全然わかりません。うちは母子家庭でお金もないし隙間風が入ってくるようなボロい家に暮らしてて、確かに下流家庭です。だけど俺は一度もこの家に産まれて不幸だとは思った事がありません。狭い家だけど、家族の笑顔がいつも近くで見れる。辛い事があったらすぐに気付いて力になってやれる。少なくとも、ただ広いだけのこの屋敷より暖かみはあります」



大輝がそう言った瞬間、祖母が微かに顔を顰めたのを私は見逃さなかった。




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