君のいる世界




「幸せとはどういう事なのか忘れていました」



顔を上げた祖母は、膝に置いた左手薬指の付け根を、今は嵌められていない指輪を撫でるように右手でなぞった。




「あなた達二人を見ていて思い出したの。お祖父さんと愛し愛され、共に歩んできた長い年月のこと。辛くて悲しくて、もう無理だって思った事もあったけど…楽しくて嬉しくて、幸せな事の方が多かった。あなた達のように一生懸命で相手を大切にして、自分の気持ちに素直だった」



「おばあちゃん…」



「私がこれから麗奈にしてやれることは、麗奈の幸せを祈り、見守ることです。中澤さん、この子を宜しくお願いします」



「はい。任せて下さい」



祖母の言葉と大輝の誠意のこもった返事に、張り詰めた糸が切れるように目から涙が溢れた。





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