君のいる世界

自分が見たものを信じる





生暖かい風が私達の間を吹き抜ける。


その風に乗り、微かに木々の香りが鼻を掠めた。


太陽の日差しと風の香りが心地良くて、昨日寝付けなかった私には最高の子守唄のようだった。


きっと今、このざらざらとしたコンクリートに横になったら一瞬で眠りにつけると思う。




だけどそれとは裏腹に、風が吹くたびに髪が靡きキスマークがバレてしまうんじゃないかと気が気じゃなかった。


さすがにこれを見られるのは恥ずかしい…


揺れる髪を抑えながら、私はトミさんが作ってくれたお弁当に箸を進めた。



「そういえば噂になってるよ?谷本さんが今朝車内で堂々とキスしてたって」



「…っ!!ゴッホ!ゴッホゴホ…」



思いがけない山下さんの言葉に、食べていた物が喉に詰まった。


私はお茶を一口飲み、喉を落ち着かせた。



「何を言うかと思ったら…私キスなんてしてな…」



ん?待って…


今朝、車内、キス…


私は記憶を辿った。



「…っ!!まさか!」



冷や汗が一気に溢れてくる。


ドクドクと嫌な音を立て、揺れる心臓…


もしかして…康君との今朝のこと…?



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