† of Ogre~鬼の心理

第三十七節

† 第三十七節



まるで泳いでいるようだと思った。

体は宙を舞っているのだから、感じるのならば『飛ぶような』というほうが正しいだろうに、私は泳いでいるようだと思った。

必死に空を掻いて進もうと、コンクリートや標識を蹴りつけて跳ぼうと、まだ足りない。まだ遅い。速度が足りない。もっと速く、もっと早く。

そう思うのに、体が思いを具現化できず、思うように急げず、自らの鈍足に、苛立つ。

水とは比べ物にならないほど小さいはずの空気抵抗が、あまりにも鬱陶しい。邪魔くさい。

もっと速く、もっと早く。足には自然と力が加わり、焦りなのか飢えなのかが、速度が増す度に蓄積されていく。体を駆け巡る、この、異常な熱も、また。

踏みつけるたびに、石も鉄も形が変わる。

ビルの屋上、コンクリートがひび割れる。気にしない。

違うビルの屋上、フェンスがひしゃげる。気にしない。

道路標識、交通標記の鉄棒がねじくれる。気にしない。

衝撃に耐えられなかった看板が落下する。気にしない。

人が騒いだ。気にしない。

私が今、気にしていることは、ひとつだけ。

―― 真輝、こっちだよ ――


「わかってるわよ」

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