ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

「もうっ、そんなに畏まらなくてもいいのに。みんな私の親友だから、気楽にやってね」

身体をギュウギュウ当ててくる。
それに今日着てる服、胸が開き過ぎじゃないか!?
そんな近寄られると、目のやり場に困るというか……。
ヤバいだろっ!
佐々木さんの顔を見ると、目をウルウルされて微笑んでいる。
俺にそんな顔見せて、どうしろっていうんだ。
無碍に嫌な顔をするわけにもいかず、どうにか頑張って笑顔を作る。

「いやいや、こういう事はちゃんとやらないと……。今から皆さんに一杯目のカクテルを作りますね。ちょっと度数が高いかもしれないですけど“ホワイト・レディ”をご用意しますので、そちらのアンティパストをどうぞ」

そう言うと、佐々木さんが俺から少し離れた。
ほっとして智成にレモンジュースを持ってくるように指示した。

“ホワイト・レディ”は、さっき用意したベース3本のうちの1本、ドライ・ジンとリキュールのホワイト・キュラソー、それにレモンジュースをシェーカーに全て入れ、氷と一緒にシェークしカクテルグラスに注ぎ入れる。
白く淡い色合いが、純白のドレスを纏った貴婦人を思わせるカクテルで、キレと甘みと酸味がマッチした艶のある一杯だ。

佐々木さんのうっとりねっとりするような視線を感じながらの作業は、正直やり難い。
それでも何とか作り終えて一杯目を佐々木さんの前に置くと、また腕を絡めてきた。
と同時に、店のドアが開く音がする。

「こんばんは」

梓の声だっ!!
何てタイミングの悪い時に来るんだ。
梓は何も悪くないのに、心の中で悪態つく。
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