ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「こんなところで何してる? それに、その女はなんだ?」
相変わらずの上からものを言う態度にうんざりする。それに梓を“その女”扱いするのも許せない。
なのに、俺は何も言い返すことが出来なかった。
梓と一緒にいる時に兄貴に会ってしまったことで、情けないことに動揺してしまった。
梓が怒ったような困ったような、なんとも言えない顔で俺を見ているのに、どうすることも出来ないなんて……。
いつまでも黙っている俺に痺れを切らした兄貴が矛先を梓に変えても、しばらくは立ち尽くしたまま。
でも兄貴の口調が強くなり梓が怯み俯くと、強く握っていた拳を緩め、梓の肩を抱いた。
「この人は……俺の大切な人だ。結婚しようと思ってる」
「何? 結婚?」
兄貴の顔が、みるみるうちに変わっていく。
そりゃそうだろう。
まさか俺が恋人を作るなんて、思ってもいなかっただろうからな。
近いうちに親父のところへ挨拶に行くことを伝えると、その顔が今以上に険しいものになっていく。
「約束は一ヶ月だっただろう。お前たちに何も言われる筋合いはないっ!!」
そう言い放つと、梓の身体を押し歩き出した。
後ろから兄貴が何かを叫んでいたが、何も耳には入らなかった。
それよりも、兄貴のことを気にして時々振り返りながら歩いている、梓のほうが心配だった。