ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
俺と兄貴の関係に、不穏な空気を感じたに違いない。
それに俺が言ってしまった“一ヶ月”という言葉にも……。
何をどうやって説明すればいいのか分からなくなってしまい、無言のまま歩き続けた。
「遼さん、肩が痛いんだけど……」
弱々しく呟いた梓の声に足を止めた。
何やってんだ、俺……。
深く溜め息をつくと、梓を見た。
俺の気持ちを察してか、無理に笑顔を作る梓に心が痛む。
「ごめん。気分悪くさせたよな……」
と言葉をかければ、「……遼さんの方こそ大丈夫?」と、俺の心配をしてくれた。
自分の情けなさに俯くと、俺の顔を覗き込み満面の笑みを向けてくれた。
その笑顔に救われ俺も笑うと、今後は梓に手を取られ引っ張られるように歩き出した。
しかし結局、何も話すことが出来ないまま店に着いてしまう。
バックスペースを覗くと、雅哉たちが慌ただしく準備に追われていた。
急いでいるふりをして、梓に何も言わず三階へと駆け上がった。
店の制服に着替えながら考える。
折角今日一日で、梓との関係がグッと縮まったいうのに……。
あんなところで兄貴に会ったことで、流れが全部変わってしまった。
いずれは“おとめしの恋愛”を始めた理由を梓に話すつもりではいたけど、このタイミングになってしまうと、正直話しにくい。
溜め息をつきながら最後のボタンを留め終えると、階段を上がってくる音に気づいた。
「梓だよな……」
小さな声で呟くと、いつもどおりの自分を装い、ドアの前に立った。