ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「痛いよね」
「ぷっ……」
隣で遼さんが笑うと、力強く私の肩を抱いた。
「夢だと思ってるの? 心外だなぁ」
そんなやり取りをしている私たちを、お兄さんが苦々しい顔をして見ていた。
「遼、お前は何も分かってない。まぁ精々頑張るんだな」
「言われなくても、そうするよ。行くぞ、梓」
今度こそ本当に部屋から出て行こうとすると突然扉が開き、貫禄ある白髪の男性と奥さんが立っていた。
「あらあら二人共、まだ帰っちゃダメよ。さあさあ、こちらにお座りになって」
私は奥さんに腕を引かれ、遼さんは渋々といった顔でお兄さんの向かいの席に座る。
遼さんの目は、お兄さんの隣に腰を下ろした白髪の男性を見据えたままだ。
怖いくらいの目に、いつもの温和な遼さんの姿は無くなっていた。
奥さんが全員にお茶を配り終わると、白髪の男性が大きく咳払いをし、部屋の空気がまた一段と不穏なものに変わった。
「遼、久しぶりだな。お前がどんな暮らしをしているか気になっていたが、元気そうで何よりだ」
「なに白白しいこと言ってんだよ……。親父にはどうでもいいことだろ」
親父……。この人が、遼さんのお父さん。
遼さんの恐ろしいほど低い声を聞いて、お父さんへの憎しみが計り知れないものなんだと改めて知る。
しかしお父さんを見れば悲しみに染まり、何かを詫びたそうな顔をしていた。