ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~

彼女が好きな“レディー・ジョーカー”を作り始める。
カクテルを作っている動きが好きなのか、いつも視線を感じていた。そして今も手元を見つめられている。
俺のことを想って見つめているわけじゃないのは分かっていても、鼓動が速まっていくのを抑えることはできなかった。

しかし、今日は逆だ。
出来上がった“レディー・ジョーカー”をグラスに注ぐと、それを口につける彼女をじっと見つめる。
出来るだけ熱く、強く。
彼女が気づくように……。
そして俺の視線に彼女が気づくと、顔をゆっくりと上げ二人の視線が一瞬だけ交わる。
その瞬間、彼女が顔色を変え、身体がビクッと跳ねるのを俺は見逃さなかった。
わざと鼻で、軽く笑ってみせる。
これも彼女を動揺させる作戦の一つだ。

何事もなかったかように仕事を続ける俺に、「枝里から聞いた話、早く忘れてね」と言われたが、「努力はしてみる」とだけ答えておいた。
あんな話、早く忘れてしまいたいに決まっている。誰が好き好んで、好きな女の元彼とのあれやこれの話を覚えてる馬鹿がいるってんだっ。
でも、あの話を聞いたおかげで、俺は動く出すことができたんだ。
だから、この作戦が成功するまでは、絶対に忘れてなんかやらない。
俺が、『男なんて所詮みんな同じ』なんて考え、ひっくり返してやる。

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