精神科に入院してきました。
女性は何人いるのだろう。

 さっきの、ナースに「現実的な心配をしているけど、心配し過ぎ」で通帳を見たいと訴え続けている太いおばさん。


 これはナシ。話せる気がしない。
現実的な心配話をされても対応できないし。


 それから、そのおばちゃんが「もう一カ月になるのに病院から出してもらえない」と愚痴っているのを、「私はあんたの進歩が分かるわよぉ」と慰めているイケメン、もとい見た目イケメン、声は超甘甘な女子ボイスのおばさん。


 おせっかいは苦手だからこの人もパス。
まともそうではあるけど。


あとはひたすら狭い廊下を前かがみに走っているおばあちゃん。
なんかもごもごしゃべってるし当然パス。

それから。
ふにゃり、とした雰囲気で、鼻にかかった甘い声の、ショートカットの女の子。
中学生くらいかな。かわいらしいけれど、常に目の焦点が合っていない。
候補、としてとりあえず観察。

その女の子とよくしゃべっている、きれいに茶色く染めて整えたショートカットで、ジーパンの履きこなしがおしゃれな女性。
彼女も化粧しているし、ピアスもつけてるし、もっと言うと煙草も喫煙室で吸っている。


いちばん「マトモ」そう。
だけど、少し人を寄せ付けないというか、「話しかけるな」というオーラが出ていて近寄りがたい。
 前述のふにゃふにゃちゃんには姉のように親切なんだけど。



そんなわけで、私は一人の女の子に焦点を絞った。

 最初に書いた、女の子。
レッドに染めた髪。目の周りの真っ黒アイメイク。口にピアスが四つ。耳には数えられないくらいのピアス。


 普通、きっと敬遠するタイプだろう。
だけど私にはヴィジュアル系バンドが好きな友人がいて、だいたい彼女たちもそんな髪型にメイクにピアスだったから、きっとその口の人だろうと私はあたりをつけた。


 よし、話しかけるぞ。

廊下を歩いている彼女の横に何気なく並んで、私は声をかけた。
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