雨、ときどきセンセイ。

「起立」


センセイの声。

相変わらず、耳に残る声をしてるなぁ。


私は数学の時間が始まってすぐは、しばらくその余韻に浸る。


こんなに見てたらやりづらいだろうな。


そのくらい、センセイを目で追っていて。

しとしとと、今朝は大丈夫だった雨がちょうどセンセイの授業中に降り始めた。


雨の音が耳に心地いい。

けど、晴れの日より静かにも感じるのはなんでだろう。


そんな中、私は目で、耳で……横切る風すらも、肌で。
全神経をセンセイに集中させてしまう。

逃さない。
逃したくない。

センセイの全てを。


……だって、唯一堂々と観察できる時間と空間。

逃げることも逃げられることもない。
邪魔されることもない。

だから、一秒たりとも無駄にしないように。


そして、願わくば――センセイ。

私の視線に気づいてくれたなら。


そうしたら、きっと私はすぐに勘違いしてしまって、授業どころじゃなくなるだろう。


そして、そんなことをも、きっと“大人の”センセイはお見通しで。

だから……だから、こっちを見てくれることはない。


そう、思ったのに……。



< 106 / 183 >

この作品をシェア

pagetop