雨、ときどきセンセイ。
記憶と音色


「ねぇ。別にキライじゃないんなら、前向きに考えるとか、そういうの、ないの?」


お弁当を食べてる最中に、なんの前置きもなく、みっちゃんが聞いて来た。


ほんと、こういうテの話、すきなんだなぁ。


私はそうとしか思って聞いてなかった。
でも、私が適当な反応をしていると、みっちゃんの顔つきと声が変わって驚いた。


「……なんか、あるんでしょ」


じっと目を見つめられる。
その真剣な顔を数秒黙って見つめ返す。

考えたら、みっちゃんが一番の友達だと思っていながら、なにひとつ話をしてない。
そしてここ数日間の私の職員室へ行ったり放課後は別に帰ると伝えたり、怪しい行動。

さすがにこれ以上は引き延ばせないのかもしれない。

ただのコイバナ好きの興味本位だけで聞くような子じゃないってわかってるから。

そろそろ、打ち明けなきゃかな。

だって、逆の立場だったら、やっぱり早めに報告して相談とかして欲しい。
何も役に立たないかもしれないけど、話を聞きたい。

改めてそう考えて、一呼吸置く。


「……みっちゃん」
「うん」
「私、気になる人が、いる」
「うん」
「……驚かない?」
「どれだけ一緒にいると思ってんの? そのくらい、なんとなーく感じてたよ!」


「気になる人がいる」って言えば、てっきりみっちゃんのことだから両肩掴まれて揺さぶられるくらいの想像してたんだけど。

意外にも落ち着いた返答と、静かに聞いてくれる態勢に驚きを隠せない。

みっちゃんは呆れたように笑って私を小突く。

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