『短編』理想の上司
あたしをぐいっと抱き寄せると、昼間のようにまた強引にくちびるを奪われてしまった。
どうして。
こんな身勝手なキスなのに、あたしは溺れてしまう。
溶けそうになる。
こんな乱暴なやり方に溺れてしまうなんて、自分が信じられない。
課長にとってはきっと、遊びでしかないのに。
そうわかっていても、体が熱くなってしまうあたしは、きっとかなりの重症だ。
いつの間にか自分から舌を絡めていた。
静かなオフィスに絡み合う音が響いて、体がほてる。
すると、ふと課長はそっとくちびるを離し、間近であたしを見つめた。
眼鏡の奥の瞳が鋭くあたしを捕らえている。
「君の彼氏は?」
「え?」
いきなり何を言い出すんだろう。
意図がわからない。
怪訝な顔をしていると。
「答えなさい」
まっすぐ見つめる瞳が鋭くて、思わず逸らせてしまう。