ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~
 佐枝はいつものように義男とともに家路を歩いていた。告白して以来、二人はこの行動様式を続けている。季節は移り変わり、二人の前には進路という分かれ道が控えている。ともに同じ道を歩むために義男は度々佐枝の家を訪ねていた。成績の面では佐枝の方が勝っているからであった。だが、美鈴を始め周囲の者はそんな二人を堂々と冷やかしていた。
 ふやかす輩は好きなようにさせておけばいい。それは義男がいつも佐枝に対して行っている言葉だ。佐枝はそんな義男を心強く思っていた。
 ただの幼なじみからより近い存在となったとき、二人の絆はより近いものとなっていた。既にお互いの一方が欠けてしまうことなど考えることが出来ないほどに成熟していた。だが、肌の触れ合いはまだ手を繋ぐだけであった。そのことを佐枝は最近不満に思っていた。もう少し近い存在になってもいい頃なのではないか、佐枝はそう考えるようになっていた。
 佐枝のそんな思いを知ってか知らずか、義男の態度は相変わらず変わらなかった。
 この意気地なし、佐枝は時々心の中で義男のことをそう呼んでいた。
 二人は公園の裏手の道に差し掛かった。
 このときとばかり、佐枝は思っていることを口に出す決心をした。
「ねえ、義男?」
 その声は少し震えていた。
「何だよ」
 頭の上の方から義男の声が佐枝の耳に届く。
「私達ってさ、付き合ってどのくらいになる?」
「そうだな、一年と半年っていうところじゃないか?」
 義男の答えは素っ気ない。
 もう、この男ときたら…。
「それだけ付き合っていて、私達まだ手を繋ぐだけ?」
 佐枝がそこまで言って、義男はやっと彼女が何を言おうとしているかに気がついた。
 不意に義男の言葉が止まる。繋いでいた手を離し、その手で佐枝の肩を抱いた。
 佐枝の耳に義男の鼓動の音が聞こえる。
 それは高鳴っているようだった。
 公園の裏手の道は人通りが少ない。家もほとんど建っていない。
 義男はふと歩みを止めて佐枝の方に向く。あいているもう一方の手も佐枝の肩に触れる。
 佐枝は自然と良に瞼を閉じる。
 二人の顔が近づいていく…。
 そのとき、義男は頭上から甲高い叫び声と羽ばたく音を聞いた。そして次の瞬間、後頭部に激痛を感じ、地面に叩きつけられてしまった。
 佐枝の叫ぶ声が辺りに響く。
 義男は立ち上がり、佐枝の前に壁のように立ちはだかる…。
そこへキメラⅠが急降下してくる。
 擦れ違いざまにキメラⅠの鋭い爪が義男の皮膚を引き裂く。
 もんどり打ちながらも義男は体勢を立て直して佐枝に向かって叫ぶ。
「佐枝、逃げろ!」
「でも…」
 必死で攻撃をかわす義男をみて佐枝は逃げることを躊躇する。
 だが、義男はそんな彼女に向かってもう一度叫ぶ。
「何しているんだ。俺のことはいいから早く逃げろ!」
 義男の言葉に従い、後ろ髪を引かれながらも佐枝は彼に背中を向けて走り出そうとした。しかし、それは出来なかった。
 佐枝の行く手をキメラⅡが牙をむいて立ちはだかっていたからだった…。
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