ふたり輝くとき
「ご、ごめんなさい」

サラもすぐに気がついたようで、慌てて口を噤む。幸い、店員は次の客の注文を取るのに忙しくて聞かれていなかったようだ。

ホッと息を吐いたサラ。2人は手をつないでその場を離れ、ベンチに並んで座った。

「えっと……あの、召し上がりますか?」
「僕はいいから、サラが食べなよ」

先ほどからユベールが自分の分を買わなかったことを気にしているらしいサラに、ニッコリと笑いかけるとサラはやはり少し迷いながらもクレープを口にした。

「おいしい」

パッと表情を明るくさせるサラの頭を撫でる。

顔など覚えていないが、侍女の誰かがここの公園の屋台のクレープはおいしいのだと言っていた。デートの人気スポットだということも、侍女の誰かから仕入れた情報で。

サラを連れてきたのは、気まぐれのようなものだった。少しだけ“憧れ”とやらを与えてあげようなんて、らしくもないことを考えて……

(なんでだろ……)

それはきっと、同情――これから闇へと堕とされるまだ幼い娘への、餞とでもいうのだろうか。

チラッと隣でクレープを食べるサラに視線を向けるとサラもそれに気づいてユベールを見た。口元にクリームが少し残っているのを見て、思わず笑みが零れる。


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