ふたり輝くとき
午前中はずっと泣いて過ごして、昼食もほとんど食べないままサラはベッドに丸まっていた。

考えることは、“逃げ出したい”ということだけ。

母親の過去も、ユベールやこの城の者たちが自分を求める理由も、自分が創られた存在だという真実もどうでもいい。

何もかも、今となっては意味を成さない。

サラの理想など、最初からどこにもなかった。

(逃げたい……)

サラはパッと身体を起こした。

逃げたいのなら、逃げればいい。サラにはそれができる。いらないと思っていた力を持っているから。

ずっと琥珀のブレスレットに引き止められていたけれど、それも今なら――

サラは震える指先で右手首のブレスレットに触れた。

(もう、いいの……全部、嘘なんだからっ)

ギュッと目を瞑ったら、バチッと音がして針に刺されたような痛みと同時に鎖が千切れた。気が漏れたらしい。シーツに落ちたそれから逃げるように、サラはベッドから降りた。

そっと扉を開けて廊下を確認する。侍女や執事たちが何人かいるけれど、サラを呼び止めそうな人物はいない。

サラはできるだけいつも通りに歩くように心がけて廊下を進んでいった。
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