ふたり輝くとき
「――っ、ふっ」

零れた涙は、トレーのスープの中へと沈んでいく。

サラには、すべてを壊せば報われるとは思えない。だからといって、どうしたらいいのかもわからない。

ただ、帰りたいと思う。

でも……帰ったとして、祖父母はサラを受け入れてくれるだろうか。彼らの愛は、本物だったのだろうか?

真実を聞かされてから、すべてが作り物の様に思えてしまう。サラ自身がそうであるように。

逃げたい――

こんな偽物の世界は耐えられない。

ユベールはすべてをサラに話せば、サラがユベールのものになると思ったのだろうか。

ユベールとサラが同じ境遇にあるから、サラも同じ気持ちになると思ったのだろうか。自分に素直に従うようになると。

優しくしてくれた最初の1週間も、憐れな娘に同情していただけなのだ。すべてが偽りだった。

それに縋り付いていたサラもバカだ。

それなのに、彼の冷たいキスを拒まなかったのは……サラがユベールを好きになってしまったからだということもわかっている。

最初から……馬車を降りたときから、その優しい笑顔に憧れだった気持ちは一瞬で恋に変わっていたのだ。

「サラ様――」
「1人に、してください。食事もいりません」
「……かしこまりました」

クロヴィスはサラの言葉に従って、トレーを受け取ると部屋を出て行った。
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