ふたり輝くとき
だが、予想したような拘束はなく、代わりに冷たい空気が肌を撫でた後、高めの声が響いた。

「ちょっと貴方たち!うちの国で何やってんのよ!」

薄っすらと目を開けると、ユベールとサラの前に黒髪をひとつにまとめた小柄な少女が立っていた。

2人を取り囲んでいた男たちは渦巻く水の中でもがいている。

「クリス、ティーナ……」

ユベールも驚いて目を見開いている。

しばらくしてクリスティーナと呼ばれた少女がパンッと手を叩き、渦巻いていた水は地面に流れていった。

「ここはマーレ王国の領地よ。貴方たちが勝手に踏み込んでいい場所じゃないわ」

彼女は地面に膝を着いて咳き込む男たちを見下ろしながら、凛とした声で言い放つ。

「それとも、すべて承知で不法入国に争いまで起こしているのかしら?でしたら、すぐにお父様に報告するわ。もちろん、同盟国のヴィエント王国へも」

男たちは素早く目配せをすると、1人、また1人と姿を消していった。

全員が退いたのを見届けて、クリスティーナは振り返ってユベールとサラを見た。

サラと同じくらいの年だろうか。水色の綺麗な瞳はマーレの海を思わせる。その瞳にはとても強い光が宿っていた。

上質だが、それでいてあまりレースや飾りを施していない、動きやすそうなドレスはルミエールの城で着せられる豪華なものよりも綺麗だと、サラはぼんやり考えた。

クリスティーナはニッコリと2人に向かって微笑み、先ほどと同じように芯の通った声で言った。

「ルミエール王国第一王子、ユベール・ブイレント。なぜ、貴方がここにいらっしゃるのか……説明してくださります?」
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