ふたり輝くとき
“君を道具のように扱うことはしないと約束する”

手を振って立ち去っていくロランの背中を見つめて、サラはため息をついた。

ロランの言葉を信じてもいいのだろうか。ジャンはサラを、ユベールを殺めるための武器のように考えているようだったから、そのジャンが推しているというロランのことも少し警戒している。

けれど、柔らかな物腰でとても優しい瞳をしていたから……疑いたくない。

「上着……」

サラは背中に掛けられたロランの上着を掴んで立ち上がった。

返しそびれてしまった。これは、どうすればいいのだろうか。ロランの部屋がどこにあるかは知らないし、そもそもユベールの妻である自分がロランに1人で会いに行くのは良くないことだと思う。

ぼんやりと、歩いて城へと戻り廊下を進んでいく。

クロヴィスに頼んだら返してくれるだろうか。でも、クロヴィスはロランに気をつけろと言っていたから怒られてしまうかもしれない。彼が怒るというのは想像しがたいが……

「随分、度胸があるんだね?」

低い、機嫌の悪い声に顔を上げるとユベールが壁に寄りかかってサラを睨みつけていた。足早に近づいてきたユベールに乱暴に腕を引かれて近くの部屋へと押し込まれた。

「痛っ――」

ドン、と扉に押し付けられる。

サラを見つめる瞳には、ゆらりと揺れる炎のような……何かが浮かんでいるように思えた。それが何なのかサラにはわからなかったけれど。
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