ふたり輝くとき
サラの手を引いて客室へと入ったユベールは彼女をソファに座らせると、ニッコリと笑いかけた。

「長い間、馬車に揺られて疲れたでしょ?紅茶でも飲む?」
「あ、いえ……あ、あの、その……」

王子の前だと意識して緊張しているのだろうか。サラの視線はずっと床に張り付いていて、うまく言葉も出てこないらしい。

「そんなに緊張しないで。僕たちもうすぐ夫婦になるんだよ?」
「は、はい……」

キュッと膝の上でドレスを握ったサラ。その手元をじっと見つめて、ユベールは彼女の隣に座った。

この娘も……同じ。道具として、駒として、使われる人間。可哀想に、たった18の――成人したばかりの少女は何も知らずにこの城に放り込まれる。

「サラ、こっち向いて」

笑顔を浮かべ、サラの頬に手を添えて自分の方を向かせると、青く透き通った瞳がユベールを映す。

そこに映るのは、戸惑いと怯え。そして王国の王子への憧れも。

女の子であれば誰もが1度は夢見るだろう。“お姫様”になることを。

「ユベール様……」
「緊張してるの?」

ぎこちなく頷いたサラ。不安で泣きそうな表情に思わずフッと笑みが漏れる。

純粋で、人を疑うことを知らないこの娘を……泣かせるのはいつにしよう。

すべてを知ったとき、彼女はどう変わるのだろう。

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