ふたり輝くとき
ユベールはフッと息を吐き出してサラを抱き上げた。

「ユベール」

サラを連れて行こうとするユベールをダミアンが呼び止める。まだ諦めていないらしい。

(この老いぼれが……)

ユベールは心の中で舌打ちをして振り返った。わざと部屋に気を散らしてみる。

「何、父上?」
「い、いや……」

敏感にユベールの気が漏れてきたことを察知したダミアンは視線を逸らして「何でもない」と言った。

「そ。じゃ、僕は行くよ」

ユベールの腕の中で胸に顔を埋め、震えてすすり泣くサラを抱く手に力をこめた。自分の感情がよくわからない。

ユベールは扉へと歩を進めながら考える。

なぜ、サラはこんなにも簡単に泣いたのだろう。それもこんなに取り乱して。ユベールの前ではいつだって唇を噛み締めて堪えるその涙を、今は惜しみなく流していることが気に食わない。

扉を抜けると、ユベールに強引に突破されて真っ青になった警備兵が立ち尽くしていた。

「君たちも、早く荷物をまとめて出て行ったら?殺されないうちに、ね」

そう言い残してユベールは廊下を進んでいった。
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