ふたり輝くとき
泣くなと言っているのに泣き止まない。ユベールがサラに泣いて欲しいと思うときは、なかなか泣かないくせに。

(……泣いて、ほしい?)

自分の思考をよぎったその願望に、ユベールは戸惑う。

一体、自分は何を考えているのだ。女が泣くのは鬱陶しいだけだ。今まで何人もユベールの前で女はその武器を使ってきた。ユベールの心が全く動かないことにすら気づかずに。

それが、どうして……

ユベールは冷静になろうと、1つ深呼吸をした。少し疲れているらしい。この何も知らない無垢なうさぎがいろいろと引っ掻き回すせいだ。

震える手でユベールのシャツをギュッと握り、それを溢れる涙で濡らしていくサラはとても小さい存在に思えた。

「ユベール様っ」
「わかったよ。わかったから……」

とにかく、目を真っ赤にして本当にうさぎのようになって泣き続けるサラの涙を止めなければ話にならない。サラの理想を演じさせられるようでムカつくけれど、仕方がない。

ユベールはサラの背中をポンポンと優しく叩いた。

最初はイライラしていたけれど、ユベールの名を呼びながら少しずつ落ち着いていくサラの様子にだんだんとユベールの心も静かになっていった。

これは、何なのだろう。よくわからない。
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