ふたり輝くとき
「ジャン、サラを部屋に送ってくる。これからのことはその後で。すぐ戻るから」

ショックを受けている状態とは言え、サラがいるところではまだ“王子様”でいなければならない。計画を変更するにしても、サラには優しく接しておく方がいいだろう。

ジャンは怒りに震えたままだったけれど、ロランがサラを抱き上げて部屋を出て行くのを黙って見送った。

「ユベール様っ」

ユベールの名を呼びながらロランにしがみつくサラ。

「サラ、落ち着いて。もう大丈夫だから。俺が――」
「サラは僕を呼んでるみたいだけど?」

ロランは大きくため息をついた。角を曲がったところでユベールが壁に背を預けている。

(やっぱり、か)

ユベールはサラに溺れ始めた。いや、もう抜け出せないところまでハマってしまったのかもしれない。

サラの憧れはロランの予想通りすぐに恋へと変わった。ユベールが恋だの愛だのに振り回されるのは意外だったけれど、同じ境遇にある2人が惹かれ合うのは必然なのかもしれない。

当の本人たちはまだ、それに気づいていないようだが。

「頬、ジャンに思いっきり殴られていたから、クラドールに診てもらった方がいい」

サラをそっと床に下ろすと、ユベールは彼女の身体を乱暴に引き寄せた。泣きじゃくるサラを見て、顔を歪めたのもロランは見逃さなかった。

「それじゃ、俺はもう行くよ。もう目を離さないようにね」

ロランは心の中で笑う。ユベールの頭の回転が鈍くなるとき――女神はロランに微笑むのだから。

< 97 / 273 >

この作品をシェア

pagetop