君と、世界の果てで
家に帰り、ジャケットをライダースに変えた。
今は紗江が選んだもの全てが、嫌だった。
ベースと車のキーをつかんで、家を出ようとしたら、母親に声をかけられた。
「おかえり。どこか行くの?」
「あ?あぁ……陸んち」
「それ……陸のギター?」
「何回言わす。ギターじゃなくて、ベース」
母親は、同じようなもんでしょ、と笑った。
「翼が弾くの?」
「……おう」
「そう……陸も喜ぶわね」
「えっ?」
「陸は、バンドマンのお兄ちゃんが、大好きだったものねぇ」
母親は、うっすらと、涙を浮かべているように見えた。
「……中坊ん時か」
「えぇ?翼がやめるまで、ずっとでしょ。
やめてからは、寂しそうだったもの」
「気持ちワリイ事言うな……」
憎まれ口を叩きながら、母親ならではの視点に感心もした。
そうだ。
バンドをやめる事に一番反対したのは、陸だったな。