君と、世界の果てで
車から降りると、潮の香りが鼻をくすぐった。
そういえば、あの海、昔、家族で行ったな。
この家に来るのも、陸に最後に会った以来か……。
合鍵を取り出し、木製のドアを開ける。
ギイ、と古い金具の音がした。
…………?
潮の香りとは別のものが鼻腔に届く。
花のような、甘ったるい匂いだ。
かいだ事のあるような……
陸が使っていた、香か何かの残り香だろうか。
一階は店舗だったため、カウンターがまだ存在した。
その奥には、先人が置いていったコーヒーメーカーまで。
シンクは綺麗で、あまり使った形跡がない。
年代もののテーブルとソファも、そのままだ。
角には、無理矢理増築したらしい、ユニットバスがある。
天井は、吹き抜けになっていた。
螺旋階段を二階にあがると、そこが陸の寝起きしていた部屋となる。
ここのテーブルやソファは、陸と一緒に撤去した覚えがあるな。
代わりに、ベッドやら、日用品を運んだんだ……。
あれは、どれくらい前のことだったか。
「いかんいかん」
感傷的になっている場合ではない。