結婚白書Ⅲ 【風花】


「夏の休暇が取れそうだよ 旅行に行かないか」



そう告げると 朋代の顔が明るくなった

二人でどこか旅行にでもと考えていたが なかなかまとまった休みがなく

結婚して まだどこにも連れて行っていない

籍を入れただけでスタートした結婚生活

赴任先に来て3ヶ月近くがたった

彼女も ここの生活に慣れるのに精一杯だっただろう


官舎では 他の省庁に勤務する人々も一緒だった

2・3年で転勤を繰り返すため 妻たちは専業主婦が多く

朋代は そんな妻たちとも付き合いをしなければならなかった



「楽しいわよ みなさんと集まってお茶を飲んだり 習い事をしたり 

こちらの情報も教えてもらえるから とても助かってるの」



私が心配したほどはなく 上手く付き合っているようだった





「結婚の報告をメールしたら ぜひ遊びに来いって 

僕も夏休暇と有給を使えば 10日以上休めるよ」



防衛省に勤務している学生時代の友人が 大使館付きの武官として

オーストラリアに赴任していた



「彼らも休暇を使って旅行をするから 一緒にどうかと言ってきた 

メルボルンからタスマニア島に行く予定らしい……思い切って行ってみないか」


「私 南半球って行ったことないから興味があるけど 

8月だとあちらは冬でしょう?」


「うん でも日本みたいに四季がはっきりしてないらしい 

冬でも寒い日もあれば 半袖で過ごす日もあるらしいよ」


「お友達にご迷惑じゃないかしら」


「迷惑なら最初から言ってこないよ 二人とも高校時代の同級生なんだ

彼ら夫婦とは長い付き合いだから大丈夫 

僕もここ数年会ってないから会いたいと思ってね」


「二人ともって 奥様も同級生なの? 

それじゃ衛さんの高校時代のお話も聞けそうね」



最初は心配気な朋代だったが だんだん楽しそうな口調になってきた。




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