結婚白書Ⅲ 【風花】


「遠野はパイロット向きだと思ったんだがなぁ 

昔から ここぞってときに冷静な判断をするんだ」


「そんなことはないさ 蓮見は やっぱりナビゲーターだな 

今度だって見事な旅行プランだよ」


「ナビゲーターって どんなことをされるんですか?」



蓮見さんが ”それでは ご説明いたします” と 真面目に礼をして話し出す 

そのしぐさが可笑しく みんなの笑いを誘う



「パイロットが冷静に判断できるように 常に気を配るのが僕らの仕事なんです 

後部座席でパイロットに指示を出すのが僕らですからね 

飛行計画を綿密に立てて 狂いのないように飛行機を飛ばす 

気配り第一なんです 旅行プランなんて楽なもんですよ」



気配りに秀でた蓮見さんと 判断力に長けた衛さん だからこそ上手く

付き合ってこられたのだろう

志津子さんも交えて 高校時代の思い出話が交わされる

蓮見夫妻の様子から 高校時代からのお付き合いかと思ったが……



「コイツとは 卒業後会うこともなく連絡さえしなかったのに 

同窓会でバッタリ それからです」


「お互い 当分結婚はしないと決めたところだったの それがねぇ うふふ

人生 何が起こるかわからないものね」



蓮見さんと志津子さんが 顔を見合わせて肩をすぼめた



「お互い昔を知ってるし 気が楽で付き合っているうちに子供が出来て……

それなら結婚するかって」


「結婚してからわかったんだけど 戦闘機乗りの手当てってすごいのよ 

でもそれは危険手当なの

いつも事故と隣り合わせにいるから 事故は 即 死に繋がるでしょう 

待ってる方も覚悟がいるのよ」


「へぇ そうなんだ 志津子さん 毎日覚悟して俺の帰りを待ってたのか 

知らなかったよ」



蓮見さんがおどけると ”そうよ 知らなかったの?” と 志津子さんが

大げさに返す

志津子さんは おおらかで包み込むような雰囲気の方だった 

そのおおらかさが 蓮見さんの重い任務を支えているのだろう


”待ってるほうも覚悟がいるのよ”……これは志津子さんの正直な気持ち 

夫婦の何気ない会話で 張り詰めた日常を超えている様子が伝わってくる




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