結婚白書Ⅲ 【風花】

2.未来へ



赴任先の冷たさに比べれば 東京の冬は穏やかだった

クリスマスが過ぎ 年末のせわしさが街中に漂う中 行き交う人は 

みな忙しそうにすれ違っていく

数年前まで当たり前に見ていた都会の風景なのに 

それらに懐かしさを感じることはなく 騒々しさばかりが目に付くのは 

私が地方勤務に馴染んだせいだろうか


賑やかな表通りから路地に入り込むと 先ほどの喧騒は消え静かな住宅地が

姿を見せた

景観を損なわぬためか低層のマンションが立ち並び 

まだ植えられて間もないといった街路樹が この街の新しさを物語っていた


実家に行く前に 仲村さんの家族に会うことになっていた

仲村さん夫婦には どれほど世話になったかしれない

私たちが一緒になれたのも 仲村さんのおかげだと言っても過言ではなかった

住所を頼りに訪ねていくと 真新しいマンションの前に仲村さんが待っていた



「桐原さん 少し痩せたかな 育児で食べる暇もないでしょう」



朋代の上司だった仲村さんは 以前と同じように旧姓で呼びかけた

穏やかな仲村さんは今も変わらず 静かな語り口調もそのままだった



「これから子供にも金が掛かるのに 支払っていけるのだろうか」



当分転勤もなさそうだと この秋にマンションを購入したそうだ

ローンの支払いを口では心配しながら真剣に悩む様子はなく 

私の腕から子供をひょいと抱き取ると

朋代に顔を向け ”夕紀が首を長くして待ってるよ” と告げ 

マンションの中へと案内した



玄関をあけた瞬間 夕紀さんの笑みが待っていた

挨拶もそこそこに 朋代と手を取り合い再会を喜んでいる

私は本省出張の折何度か会う機会があったが 朋代は三年ぶりの再会だった



「まぁ お顔を見せて 誰に似てるのかなぁ」



仲村さんの腕から 当たり前のように子供を受け取り 顔をのぞきこむ



「目がパパにそっくりね ねぇ そう思わない?」



仲村さんに同意を求め 二人で頷きあっている

奥からお嬢さん三人も顔を見せた



「こんにちは」



一番上のお嬢さんは中学生になったのだと聞いて 時の流れを感じずには

いられなかった




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