結婚白書Ⅲ 【風花】


出産を経験した女性の肌は 母乳を与えるほどに滑らかになると

聞いたことがある

朋代は 今まさに その時期だった

胸のボタンをはずすと こぼれ出た乳房が勝ち誇っていた



「胸が大きくなったといっても 20代の胸じゃないの 

ボールに空気がパンパンに入ってるみたいで……」


「確かに大きくなったよ 

でもなぁ 半分はアイツのものかと思うと嫉妬するね」



子供に嫉妬してどうするのと 朋代が呆れながらも笑っている

手のひらに余るほどの大きさになっている乳房を掬い取り 顔を近づけると 

母乳の甘い匂いがした

口に含み刺激のないよう ゆっくり吸い上げると 朋代の口から

絹のような細い声が漏れた

微かに甘味が感じられる乳首は 熟れた果実のように柔らかく 

赤ん坊の口に含まれるために変化を遂げている

肩から鎖骨にかけて肉が削げ落ち かなり細くなっていたが 

腰回りは以前より丸味をおび

少し脂肪を含んだ弾みのある肌は 私の手に至極気持ちよく馴染んだ

子供を産んだことで敏感さを増した体は 口づけるほど大きくしなり

朋代の顔は 今までになく恍惚の表情を浮かべ 私の激情をあおった



ふぇ……と 小さくむずがる声がした


朋代の顔が 瞬時にして母親の顔になった

甘い感覚に酔いしれていた体がベビーベッドに向けられ 腰を抱いていた

私の手をそっとはずした



「お腹がすいたんじゃないかしら」



朋代の口に指を立て 声を立てないように伝えると

むずがる声は次第に小さくなり また寝息が聞こえてきた

ふぅ……と安堵のため息がでた朋代の腕をつかみ 胸元に引き寄せた



「アイツに邪魔されたな」


「そんなこと言わないの」



耳元に口づけると すぐに甘い表情を浮かべ 彼女から母親の顔が

消えていった





翌朝目覚めると 隣りの部屋から あどけない笑い声が聞こえてきた



「朝からご機嫌だね」


「この子ったら5時に起きたのよ 

良く寝ましたって顔をして うんうん言いながら一人遊びをしてたの」


「お前良く寝たなぁ それでこんなにご機嫌なんだ」


「続けて9時間も寝たのよ 今までの最高記録だわ おっぱいも飲んだし 

ご飯の支度をする間おとなしくしててね」



穏やかな一日の始まり 何気なく繰り返される日々

普通であることのありがたさは 自分が一番知っている


賢吾も元気に学校に行っているだろうか

もう一人の我が子を思い出し 赤ん坊の頬を指でつついた
 


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