結婚白書Ⅲ 【風花】


週末に彼が会えないかと連絡してきた



「土曜日 映画を見に行こうよ」


「いいけど 何を観るの?私と和史の趣味 合わないじゃない 

アクション物はお断りよ」


「朋代も観たいって言ってた映画 昼飯食ってから行こうよ」



付き合いだした頃は まだ良かった 

ほの暗い映画館は 二人をそれなりの雰囲気に浸らせる効果があったから……

気が乗らないけど 土曜日は特別予定もないし 和史の映画に付き合うか




 
和史と約束した前の日 課長の歓迎会があった 隣の水城さんの課も一緒だ

一通り紹介が済むと 待っていたかのように課長達の周りに女の子が集まる

私と水城さんは 少し離れたところから その様子を眺めていた

水城さんは 私よりふたつ年上で 今年初めに結婚したばかり

ご主人とは職場結婚で 私もよく知っている



「桐原さん アナタは課長達に興味なさそうね 

まぁ 野間さんと付き合ってるから当たり前か」



水城さんも和史を知っている



「どお?そろそろ結婚の話は出ないの? 

ゆっくりしてると あっという間に30歳よ」



私 ギリギリセーフだったの と水城さんが小声で言った

彼女は今月30歳の誕生日を迎えたばかり



「うーん 親はうるさいけど 彼とはそんな話したことないな

私もまだいいかなぁって思ってるし どうでもいいの 

最近は会ってもドキドキしないもん」



ペロッと舌を出して告白した



「ちょっと それって危険よ 彼が転勤しちゃって

距離が出来たのも良くないわね」



水城さんは本当に心配してくれている



「女同士 そんなところにいちゃいけないな こっちで一緒に話をしましょう」



そう言ってきたのは 仲村課長だった

誘われるままに みんなの話の中に入った

驚いたのは いつもは寡黙な遠野課長が楽しそうに話の輪に入っていること

遠野君とは大学が同窓なんだと 仲村課長が紹介していた


人は 酒が入ると いつもと違う面をのぞかせる

そのお陰で 遠野課長が 思ったより取っつきにくい性格ではないとわかった




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