結婚白書Ⅲ 【風花】


妻から連絡が来たのは それから間もなくのことだった



「ウチの先生が 地方で講習会をするの それに同行するから 

その後そちらに寄るわ」



ついでに寄るのか……

その程度の扱いだったのかと やるせない思いがした

あれから何度も電話で話をしたが 話は平行線のままだった

妻は 自分が赴任先に顔を出さないから 私の機嫌が悪いと思っている

お互いの気持ちのすれ違いなど 考えも及ばないのだろう





妻から夕方の電車で着くと連絡があったのは 二週間ほど後

改札口に現れた妻は 



「このまま食事に行きましょうよ」



昼食も食べる時間がなかったと 疲れた顔をしていた




「あら 結構気の利いた店じゃないの 

室内装飾にも凝ってるし 地方でもこんなところがあるのねぇ」



褒めてはいるものの どこか見下した言い方が耳につく



「僕も外で食事をすることが多いからね 自然と詳しくなるんだ」


「それって私への嫌み? せっかく二人で食事をしてるんだから

楽しく食べましょうよ」



どうしてこんな風になってしまったんだろう 

以前は もっとお互いを労っていたはずなのに……


妻とは友人の紹介で知り合った

どちらかというと彼女の方が積極的で 頻繁に電話をくれ 

間もなく私の部屋に来るようになった

何事にも エネルギッシュに取り組む彼女に魅力を感じた



「いつか フードコーディネーターになりたいの」



彼女は 仕事をしながら 料理の勉強をずっと続けていた

仕事の後に料理の勉強に通い

結婚後も 妊娠 出産の時期を除いて勉強を続けていた


あの頃は もっとお互いを理解しようとしていたのに

どうしてこんなに歯車がかみ合わなくなってしまったのか




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