結婚白書Ⅲ 【風花】


「朋代 僕の正直な気持ちを聞いて欲しい」



朋代がようやく顔を上げた



「妻とは別れることができても 子供のことは別だ

賢吾を引き取らなくてはならない状況になるかもしれない

だから こんな状態で 君と一緒になるとは約束できないんだ」



朋代は黙って聞いていたが 険しい顔になっていた



「そんなの 私はいやです 

どうして 一緒に乗り越えていこうって言ってくれないんですか

どうして ついてきてくれと言ってくれないんですか

遠野さん 自分で全部背負って……私だって一緒に……」



「朋代」



泣きながら それでも がむしゃらに私に向かってくる姿がそこにあった



「ありがとう 朋代の気持ちは嬉しい でも これは僕の問題なんだ

まだ何の解決もしていないことを ここで言っても仕方ないね

それには まず僕が自分自身の整理をしなければ」



「私にも一緒に出来ることはないんですか

私だけ何もしないでいるなんて そんなことできません」



「そうじゃない 君のご両親に話を聞いてもらっても 

今の僕の状態じゃ反対されるだけだ」



「でも……」

 

「これだけは約束してくれないか

結論を急がないで欲しい 家を出るなんて言わないで欲しい

ひとつずつ 問題を片付けていこう 

僕は これからの人生を君と歩いて行きたいと思っている

どうだろう それまで待っててもらえるだろうか

その上で ご両親に誠意を持って話をしようと思う」

 

朋代の表情が変わった

手を口元にあて 目は潤んでいた

大きく頷いた彼女は 立ち上がり私のそばに来た

嗚咽を漏らして泣く彼女を ゆっくり抱きしめた


彼女は 両親に反対されても あきらめないと言い切った

今も また私についてくると言ってくれている


そうだ 私が彼女に惹かれるのは この強さだ

こうと決めたら 揺るがない意志


クールな顔の下に たぎるような情熱を秘めている 

ここに強烈に惹かれた


私の強さも試されるときが来ていた




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