結婚白書Ⅲ 【風花】


「疲れたんだろう 早く寝た方がいいよ」



妻の仕草を無視するように言う



「ねぇ やっぱり貴方 おかしいわよ 

この前だって私達……もうずいぶん何にもないじゃない

どうしたの? セックスレスを離婚の理由にするつもり?」


「それでもいいよ」


「そんなに私がイヤなの?」



彼女の言い方に 次第に冷静さが失われてきた

起き上がり 着替えた 




「待って 冗談よ 貴方があんまり意地悪だから ちょっとふざけただけ

ねぇ 本気なの? 本当に私と別れたいと思ってるの?」


「あぁ 思ってるよ」


「どうして? なぜ? 私が悪いの?」



それには答えず 車のカギを掴んだ



「頭を冷やしてくる 君も自分の言ったことを考え直すんだね」 




真夜中の街に飛び出した




近場の女に手を出すだと

なんて事を言うんだ

やり場のない怒りがこみ上げていた





街を通り抜け 海沿いに車を走らせる

緩やかな海岸線を走るうちに 昂ぶった気持ちが鎮まってきた


妻へ怒りを露にしたが 自分はどうだ

朋代との関係は 妻への裏切りではないか


妻とは ずいぶん前から気持ちが離れていた

朋代に出会ったことが 妻との別れを決めるきっかけにはなったが

彼女が直接の原因ではない


しかし きっかけはどうであれ 他の女性に気持ちが向いてしまった

それはいいのか

許されることなのか

いや 私は許されないことをしている 

そして 婚姻関係を解消する前に 彼女に告げてしまった


”これからの人生を君と歩いて行きたいと思っている”


この言葉の重みを 今 ひしひしと感じていた

妻に配慮が足りないなどと 妻への不満を身勝手に感じていたのかもしれない

朋代とのことを どこか正当化していた自分に気がつき愕然とした

だが 朋代との関係は 何があっても妻に知られてはいけない


さまざまな思いが入り乱れる

混沌とした思いを抱え 湾岸線に沿って車を走らせた




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