結婚白書Ⅲ 【風花】


「局長室で 初めて遠野君に会ったとき 彼は言い訳を一切しなかった」


「あの時は心臓が止まりそうだったわ」


「お父さんだって必死だったからな お前とのことは真剣だと言われても

そんな関係は認められないと 頭から決めつけていた」


「今でもそう思ってるの? 何もかも許せないの?」



父の真意を聞きたい その一心で重ねて問いかけた



「毎週のようにやってくるお前たちを見て 決して浮ついた気持ちじゃない 

真剣だとわかっていた」


「じゃぁ どうして? まだ誠意が足りないの?」


「いや そうじゃないんだ

朝の風景をカメラにおさめたくてね 夜が明けるまで一晩考えた 

朝もやが晴れるように お前のことを考えられたらいいんだが……」



そう言うと 父は黙り込んでしまった

会話を拒否したのではない 考え込んでしまったと言った方が良いような 

そんな様子だった

父には父の葛藤があるのだろう



庭から部屋に入ると 母が心配そうに迎えてくれた



「お父さんと話ができた?」


「うん 私たちが真剣なの わかってるって だけど まだ……」


「そう お父さんも 今は自分の気持ちを整理しているんだと思うわよ

ただ反対してるんじゃないの きっと 朋代を許す理由を探しているのね」


「お母さん 本当にそう思う?」


「えぇ 親ってそういうものよ だから結論を急がないでちょうだい

お母さんもお父さんに話してみるから いいわね」



昨日とは また違った無言のときが過ぎる



夕方 自宅に戻る私の背中に 父の声がした



「朋代 お父さんにもう少し時間をくれないか」



私は頷いて実家をあとにした





< 82 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop