結婚白書Ⅲ 【風花】


彼女の部屋に入ろうとしたときだった



「遠野課長」



振り向くと 川本さんが立っていた



「ここ 桐原さんのお部屋ですよね 

どうして彼女の部屋に課長が来るんですか」


「用があるから寄ったんだ」


「そんなに桐原さんに用があるんですか? 

私 何度かこの近くで課長を見かけました 今日だって休みなのに……」


「君に 理由を言う必要があるのかな」


「あります 課長は以前 私に公私の区別をつけたいとおしゃいました 

彼女は別ですか」



そのとき ドアが開き朋代が顔を出した



「衛さん どうしたの 声が聞こえ……」



川本さんを認めた朋代の顔が強張っていく



「桐原さん 課長と親しくしていらっしゃるようですね 

名前で呼ぶなんて 説明してください!」



私は 二人の間に入って川本さんの方を向いた



「川本さん おそらく君が思っている通りだよ」


「思っている通りって 桐原さんと付き合っているんですか?

あんまりです 今までそんなそぶりも見せなくて……私の気持ちも知ってるのに

それならそうと どうして言ってくださらなかったんですか」


「局内では それぞれ立場もある 決まったら言うつもりだった それだけだ」


「決まったらって……」


「彼女と いずれ結婚する」



川本さんの表情が一変した



「まさか 課長が離婚したのは桐原さんが原因じゃぁ……」


「いい加減なことを言わないでくれ!」



自分でも驚くほど大きな声だった

彼女は こぶしを握り締めうつむいていたが 一礼して向きを変えると 

足早に走り去った



「彼女 衛さんの後を付けてきたのかしら」


「そうだろうね この近くで何度か僕を見かけたと言っていたから 

確かめたかったんだろう」


「川本さん みんなに言うかしら」


「それはわからないが……もういいじゃないか 

みんなに知られても僕は構わないよ」



青ざめた朋代を 抱えるようにして部屋に入った



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