結婚白書Ⅲ 【風花】
20.融和


朋代から電話が来たのは 夜9時を少し過ぎた頃だった

離婚してから東京へ出張の際は 姉のところに泊めてもらっていた

そのとき賢吾も一緒のことが多かった

昨日から一緒にここに泊まっていて つい今しがた眠ったばかりだった



「うん わかったよ……もう泣かないで……

明日の夕方にはそっちに着くから……そうしてもらえると助かるよ」



私の電話を 姉が心配そうに聞いていた



「どうしたの 心配なことがおこったの?」


「いや そうじゃないんだ 彼女のお父さんが会いたいと

言ってくださったそうなんだ」


「本当なの? 良かったわぁ……衛 よく頑張ったわね」



込み上げるものがあり 姉を凝視することができなかった



「ありがとう でもこれからだよ とにかく話を聞いていただかなくては……」



二歳年上の姉は 離婚するときも 何かと面倒を見てくれた

温厚な義兄にもずいぶん世話になった



「あちらのご両親も きっとわかってくださるわよ

私たちにも朋代さんを会わせてね 今度は一緒に上京してらっしゃい」


「そうするよ 姉さん ありがとう」






翌日 午後の飛行機で帰ると朋代には知らせておいた

空港に迎えに来てくれた彼女の顔は いつになく晴れやかだった



「父がやっと話を聞いてくれるそうなの」



仲村さんの話に心を動かされたようだと 少しかすれた声でいきさつを

話してくれた



「ご両親のところには 今週末お伺いしよう」


「えぇ 実家に連絡しておくわ……賢吾君 元気にしてた?」



朋代は いつも賢吾の様子を聞きてくる

会ったこともない息子への そんな気遣いが嬉しかった



「食事の用意をしてきたのよ このまま私の部屋に行く?」


「部屋に荷物を置いてくる 僕のマンションの前で下ろしてくれないか 

すぐに行くよ」  



部屋に荷物を置き 歩いて朋代のマンションに向かった



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