結婚白書Ⅲ 【風花】
21.旅立


ピンクダイヤのネックレス

時折 手で触れては安心する


大晦日 空港に行く前 衛さんが急に車を止めて宝石店に立ち寄った



「今までプレゼントをしたことなかったね 気が利かないヤツだって 

母と姉に怒られたよ」



宝石店に寄った理由を苦笑いをしながら教えてくれた

悩んだ末選んだのが ピンクダイヤのネックレスだった

その日から 毎日身につけている





年が明け 一月も終わろうとした頃

父に呼ばれて 衛さんと二人で実家に足を運んだ

そこで聞いた話に 私は父の深い思いを知ることになる



「赴任先だが なんとか調整がついたそうだ 

このまま話を進めてもいいだろうか」


「はい 私も昨日局長に呼ばれて聞きました 

ご尽力くださったそうで……ありがとうございました」



父と衛さんの会話に 意味がわからず怪訝な顔をしていた私に 

母がそっと耳打ちしてくれた



「お父さん 遠野さんと連絡を取り合っていたのよ 

やっと準備が整ったからって貴方たちを呼んだの

4月に遠野さんと一緒に赴任先に行きなさい これから忙しくなるわよ」



仕事を退職して間を空けずに入籍すると 様々な手続きがスムーズにいくからと

淡々と説明する父

職場のみんなには 着任後の挨拶状で結婚の報告をするつもりだと 

静かに話す衛さん

母が ”おめでとう 良かったわね” と 私の手を握って微笑んだ

 



仲村課長と牧野補佐には 結婚退職の旨を伝えていたが 他の職員には

まだ言っていない

他の人にはいつ話そう……

きっかけを求めていたが なかなか言い出せなかった

そんなとき 胸に着けているダイヤのネックレスに気がついたのは 

若い女子職員たちだった



「桐原さん それピンクダイヤですね 

もしかして彼からのプレゼントですか?」


「うん そうなの」



答えた途端に色めき立ち 質問攻めにあった

あれこれ 彼女たちの問いに答えるうちに 結婚のため退職することを

話さざるをえなかった




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