幸せの選択
そう言って、コトンと私の前に小さな土鍋をおいた。


蓋を開けると、湯気と共に出汁の匂いがあがる。



「さ、先ずは腹ごしらえよ。これ食べてもう一眠りしたら?」


人間の体は現金なもので、目の前においしそうな御飯が見えると、急にお腹が空いてきた。



「おいしそう……」

思わず口を出てしまった心の呟きは、フフフと笑われてしまった。


「さあ、温かいうちにどぉぞ」

「いただきます」


誰かの作った温かな食事を食べたのは何年ぶりだろう

実家にいた時は当たり前だったことも、今はなにより特別に感じる。



大人になると、案外幸せのハードルが下がるのかもしれない。

一口一口が私の元気になっていくような気がした。

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