恋とくまとばんそうこう
始めて歌う時の、ぎこちない発音。
それが段々形になって行くと、俊はハッとした。
「ありがとうございやしたー‼︎」
全員でグラウンドに一礼する。
みんながダラダラ部室に帰る中、俊は一秒でも惜しいと千葉の歌をBGMに走った。
バンッと扉を開け、信じられない速さで着替える。
ボタン一つ止めるのも煩わしい。
「おー俊、どうした?」
目に見えて焦っている俊に、たった今部室に入って来た松浦はのんびり話かけた。
俊はガッとデカいカバンを肩にかけながら、なにもかも吹っ切れたように彼に笑う。
「ちょっと、捕まえてくる。」
「…ああ、お前のカナリアねー。」
そうニヤリと笑って松浦は俊の肩をバンッと叩いた。
「逃げられんなよー案外すばしっこいぞ。」
「ああ。」
彼の励ましのような笑みを見届け俊は部室を慌ただしく後にする。
目指すは、校舎の一番上の階だった。