オレンジジュース~俺と一人の生徒~
「あんたみたいな先生がいれば、直も大丈夫だね…」
矢沢のお姉さんは、階段から下を覗きながら小さくそう言った。
その瞳の中には、矢沢への愛が確かにあった。
俺にはそれがちゃんと伝わった。
「あの子、泣かせてばっかだから。昔も今も…。泣き虫だから助けてやってよ。」
さっきお母さんから聞いた話を思い出す。
小さい頃からお姉ちゃんが好きだった矢沢はいつもお姉ちゃんの後ろを追いかけた。
優しく受け入れてくれることがなくても、
いじわるを言われても、それでも追いかけ続けた。
でも、ある時から矢沢は追いかけることをやめた。
俺にはわかる。
傷ついても傷ついても笑っていたあいつは
きっと、もう疲れたんだ。
だから、自分から距離を置いた。
追いかけた背中がどんどん遠くなることが
怖かったんだ。