オレンジジュース~俺と一人の生徒~
矢沢は言っていた。



『お姉ちゃんの目を見れない』…と。





お母さんを大事に想うように

あいつはお姉ちゃんも大事なんだ。



だけど、目の前で泣いているお母さんを守るのは自分しかいない。


お母さんに物を投げたお姉ちゃんに、立ち向かっていって、

髪の毛を引っ張られて、頭から血が出たことがあると…



頭の傷よりも

心の傷の方がずっとずっと

深くて、痛かったんだ。





「僕のこと、先生だと思ってください。いい先生に出会えなかったなら、これから僕がお姉さんの先生になります!」



俺は、バカにされることを覚悟して青春ドラマのようなセリフを言った。


お姉さんは笑わなかった。





とても真剣な顔で俺をじっと見つめた。


見つめた…というか睨んだ…というか。




俺を見定めているような目だった。


たくさん傷ついている分、人を見る目はあるんだと思う。


汚い大人をたくさん見てきた分、

臆病になっている。




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