竜の箱庭
雷鳴



 その日、東の大陸にある偏狭の村-…カリエル村は、激しい雷雨に見舞われていた。
干ばつが続いた後なこともあり、村人たちは当初は恵みの雨だと喜んでいた。

ところが、夜半になっても降り止まない雨に、困り果てた村人たちは家に閉じこもっていた。


 カリエル村の村長であるルード・レイネルも、薄暗いリビングで家族と穏やかに談笑をしている一人だった。


 不意に、力強く家の扉が叩かれた。
こんな夜中に誰が来るというのかと、ルードは妻のリーズと顔を見合わせた。
ルードは立ち上がると、ランプの消えた廊下に顔を覗かせる。

「どなたかな」

ルードは小さいながらも村を纏める人物らしく、まだ年は30後半頃に見えるが精悍な顔立ちをした男だった。
尚も叩かれていた扉は、ルードが声を掛けるとぴたりと沈黙した。

ルードは扉の前で立ち止まると首を傾げた。

「あの…」

雨音に混じりながら、今にも消え入りそうな女の声が聞こえた。
ルードが慌てて扉を開けると、そこにはずぶぬれになった女がフードを目深に被り立っていた。
滴る雨粒を拭おうともせずに、開いた扉に女は安堵の溜息を漏らした。


「あぁ…お願いが…」

「大丈夫ですか?」

ただならぬ様子に、ルードが狼狽して尋ねる。
様子がおかしいことに気がついたのか、奥からリーズも顔を覗かせた。

「まぁ…風邪を引いてしまうわ、中にお入りになっていただいたら」

リーズの言葉にルードが同意しようとすると、女は怯えたように一歩その身を引いた。

「いえ…結構です…。それより、暫くこの子を預かっていただきたいのです…」

女が抑揚のない声でそう言う。
見れば、女の傍にはまだ幼い少女が立っていた。

 まるで意識はここにないかのように、空色の瞳はぼんやりと虚空を見つめていた。
金色の髪は、今は濡れていてみすぼらしく肌や服にはりついていた。

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