竜の箱庭
声音こそ優しいものの、老人の声はシィがこの場にいることを容認していないような色を帯びた。
思わず身を硬くしながら、シィは老人の瞳を見つめた。

「あなたには、もうお分かりのはずです」

セインは静かにそれだけ言った。
サドラルは深い溜息を零すと、ゆっくりとその身を翻した。
その背は、酷く疲れきっているように見える。

「…お前にもわかっていよう。かつて我らが慈しみ、護ったモノも潰えた。あのお方はお隠れになったまま、未だ目覚めてはいない。最早、お前が護ろうとすることに、何の意味があるというのだ」

サドラルの言葉は深い悲しみが含まれていて、思わずシィの胸も痛み出す。
それは、竜として永い年月を生きて生きた彼らの慟哭のようだった。

 やがて、とても長い間サドラルは静かに佇んでいたが、ゆっくりと二人を見つめ微笑んだ。
別れを惜しむようなその表情に、シィの胸の奥がまたずきりと痛んだ。

「…リルテノールが此処へ至る門を開いたのならば、私もお前たちを誘わねばなるまい」

「では…」

「だが、私とてあくまでもあのお方を護る門への道を開けるに過ぎぬ。その先お前たちを見定めるものがいる」

「…それは」

 セインが問いかけようと身を乗り出した時だった。
シィ達が歩いてきた回廊の向こうから、金属が擦れ合う複数の足音が聞こえてきたのだ。

思わず息を呑むシィの横で、セインが身構えた。

 程なくして、薄暗い広間に十数人程の甲冑に身を包んだ男たちが現れた。
シィはその鎧に刻まれた紋章に見覚えがあった。

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