黒姫

「馬鹿っつーか阿保っつーか……」



しかし、ぼやくように呟かれた言葉は、案外優しいものだった。



「気にしなきゃいいだろ、そんなの」
「え、無理かな」
「即答すんな」



三度上げられた手に、また叩かれるのかと、咄嗟に目を瞑った瑞姫だったが、瑞姫の頭に触れた手は、優しく髪の毛を撫でるだけに留まった。


「……ん?」
「本当、馬鹿だなぁ、瑞姫は」
「透は私を馬鹿馬鹿言い過ぎだと思うよ」
「阿保とも言ったけどな」
「ぎゃあ! 髪の毛絡まる! 掻き回さないでよ、透の馬鹿!」



必死に透の手から逃げていた瑞姫は気付かなかった。
透が呆れ顔よりも珍しい笑顔を零していたことを。
そして、その笑顔を引っ込めた透が、複雑な表情をしていたことを。

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