鳴る骨
終章 エピローグ―赦せよ、汝自身を

数年後―手向けの言葉

あれから、数年が経つ。私の生活は変わらない。起床して、バスに揺られて通勤し、いつまでも親しくなれない塾長の背中を見つつ教材を作り、仕事が終わって帰宅する途中で、「特製肉まん」を買って夕飯代わりにほおばる。そして、パソコンを立ち上げてブログを書いた後で、布団に入りながら、壁に飾った田島の絵を見つめる。日曜日には、今日のように歩いて海岸に行く。


二時ごろになった。あの親子が散歩道をゆっくりと歩いてきた。見たところ、あの男の子は小学生になったようで、もう親と手をつなぐようなことはしないが、数メートル先にジャンプしながら歩き、行き過ぎたと思ったら、必ず振り向いて両親を見る。たまに笑い声の混じった会話が耳に入るが、内容はよくわからない。しかし、見守る私には快いワルツのように聞こえる。彼らが過ぎ去った後、私は一週間のうちに味わった孤独を忘れている。そして、年をとって少し乾燥が目立ってきた自分の手をじっと見つめる。これまでもそうだったし、将来も変わらない習慣だろう。変わったのは、ただ私の心のあり方だけだ。


罪と救済、出会いと別れが交錯するこの海辺で、私は、罪を赦すのは、赦されたという思いに目覚めた自分のたましいなのだということをいつも感じる。そして、海岸という奥つ城を逍遥して、砂に埋め込まれたかのように散在する骨のかけら―白い貝殻を見ては、今は記憶の中で輝く田島の笑顔に思いを馳せる。そして岩場に腰を下ろし、潮騒を聞きながら、私はここで去っていった彼らへ、花の代わりに言葉を手向け続けている。



「自分を赦せ。さらば、救われん」




(了)
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