たぶん恋、きっと愛


急ぎますので申し訳ありません、と頭を下げた由紀が、もう一度雅の髪を撫でて。

よろしくお願いしますね、と歩き去り角を曲がるのを眺めていた、頃。


珍しく慌てた様子の宇田川が、ようやく現れた。



「…どうした」


相変わらずのスーツ姿だが、ネクタイはまだ結ばれている途中で。

靴下も、なかった。



「す…すみません、今朝がたまで友典と話を……」


「“章介さん”」


独り言のように呟いた雅が、もう一度、…章介さん、と繰り返し、ふふっ、と含み笑う。



「……は…」


ネクタイを結ぶ手が止まり、宇田川は困ったように固まった。



「雅…それはどうかと思うぞ」

「え、駄目ですか?」


さぁな、と苦笑した凱司に不満気な表情を見せた雅が、宇田川の後ろから這い出るように現れた友典らしきものに、思わず息を呑んだ。



「……友典さん、寝起き、悪すぎませんか…」

「…壊滅的だな」


「…申し訳ありません」


きゅ、とネクタイを締め終えた宇田川が踵を返し、友典の襟首を掴むと、ずるずると引きずった。


「少し、中に居てください。すぐ叩き起こします」
 


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