たぶん恋、きっと愛

淡く、盲信





「ああ? 殴られた?」



帰宅した雅は、シャワー中の凱司に、ドア越しに話し掛けていた。


「怪我ないんだろ?」


磨りガラスのドアに、凱司の模様が透けている。

鷹野はと言えば、さっき弾いた一部分を教えて欲しいと言われ、打ち上げのカラオケに連れていかれてしまった。



「…あたし、間違えちゃったのかなあ」


小さく呟いた声は聞こえなかったのか、シャワーの音が止まっても、返事は無かった。



「雅。そこのタオル寄越すか、あっち行くか、しろ」


「ん…」


焦げ茶色のバスタオルを手に取った雅は、ぼんやりとドアを開け、差し入れる。



「……馬鹿ガキ」

呟かれた凱司の声も耳に入らないのか、雅はタオルが受け取られると、再び座り込んだ。



< 540 / 843 >

この作品をシェア

pagetop